2023年4月以降に順次施行される改正法では、民法や不動産登記法などの法律に変更が加えられます。遺産分割に10年の期限が設けられたり、不動産登記が義務化されたりするなど、相続に関する取扱いも一部変更がありますので、この記事で詳しく解説していきます。

改正の背景

近年、遺産分割協議が行われず土地が放置されたり、相続した土地の相続登記が行われなかったりすることによる所有者不明の土地が増加し、土地の利用の阻害や隣地への悪影響等(空き家問題など)が社会問題化しています。
そこで、遺産分割協議や相続登記に期限を設け、なるべく早く土地の名義変更等を行うよう促し、所有者不明土地の発生の予防や土地利用の円滑化を図ることを目的として、今回の法改正が行われました。

改正のポイント

改正法では、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から見直しが行われ、具体的には以下のようになります。

  1. 登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し
  2. 土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設
  3. 土地利用に関する民法のルールの見直し

とりわけ①の不動産登記制度の見直しと、③の民法ルールの見直しにおける遺産分割に関する新たなルールの導入は、相続に大きな影響がありますので、詳しくみていきましょう。

不動産登記制度の見直し

相続登記の申請の義務化(令和6年4月1日施行)

これまで相続登記の申請は任意であり、申請をしなくても不利益を被ることが少ないため、価値の低い土地を相続した場合などは、手間と時間のかかる相続登記の申請をせず、放置してしまう現状がありました。
そのため、改正法では相続登記の申請に期限を設け、義務化することとしています。

相続登記をしなければならない期限は

相続によって不動産を取得した相続人が、その所有権を取得したことを知った日から3年以内

または

遺産分割協議が成立した日から3年以内

とされ、違反した場合は10万円以下の過料適用対象となります。

相続人申告登記(令和6年4月1日施行)

不動産を所有している方が亡くなり、遺産分割協議がまとまる前に相続登記を申請しようとする場合、全ての相続人を把握する資料が必要となり、非常に手間がかかります。
そこで、より簡易に相続登記の申請義務を履行することができるように設けられた仕組みが「相続人申告登記」です。

  • 登記簿上の所有者について相続が開始したこと
  • 自らがその相続人であること

を登記官に申し出ることで、相続登記の申告義務を履行することができます。

遺産分割協議が長引き、3年以内の相続登記申請ができない場合等に活用できる制度です。

民法のルールの見直し

遺産分割に関する新たなルールの導入(令和5年4月1日施行)

従来、遺産分割に期限は設けられておらず、遺産分割協議は相続が発生してから何年経過してからでも行うことができました。しかし、遺産分割が行われず遺産が長期間放置され、その間に相続が繰り返されることでなど遺産の管理が難しくなり、所有者不明土地の増加といった問題が生じていました。
また、相続が発生してから長期間が経過するうちに、具体的相続分(生前贈与や寄与分)に関する証拠がなくなってしまい、遺産分割が進まないといった弊害も生じていました。
そこで、遺産分割がなされず長期間放置されることを防ぐため、今回の法改正で10年を基準に遺産分割に制限が設けられました。

長期間経過後の遺産分割のルール

被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分又は指定相続分によって画一的に行うこととされました。

  • 具体的相続分:生前贈与を受けた、療養看護等の特別の寄与をした等を考慮した遺産の取得割合
  • 法定相続分:民法で定められた遺産の取得割合
  • 指定相続分:遺言によって指定された遺産の取得割合

つまり、改正法の施行後は、具体的相続分である特別受益(特定の相続人が受けた特別な利益。特別受益の持戻計算により、相続分から差し引くことができる)や寄与分(被相続人の事業を手伝ったり、財産の維持もしくは増加に貢献したり、療養介護に著しく携わったりした場合に求められる法定相続分以外の取り分)の考慮ができなくなるため、一部の相続人は不利益を被る可能性があります。

改正法の施行日前に開始した相続についても適用(5年の猶予期間あり)されますので、遺産分割は早めに行うようにするのが肝要です。

まとめ

令和5年4月からは様々な法改正が施行されますので、以前に相続があった方、これから相続される方は注意が必要です。
遺産分割や相続登記を放置していると、多大な不利益を被る可能性があります。
他の相続人ともめてしまった、遺産分割がスムーズに進まない場合には、弁護士へ相談するようおすすめします。
丑和総合法律事務所相続相談室では相続案件に力を入れて取り組んでいますので、遺産相続に関するお悩みがありましたらお気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

丸山 純平
丸山 純平代表弁護士
新宿を拠点として、相続案件に多数取り組んでいます。
他士業と連携し、スムーズな解決に尽力いたします。