「うちは大した資産もないし、揉めることも無いわ」「遺言書なんて大げさよ…」
多くの一般の方はこのように思われるのではないでしょうか。
しかし、相続トラブルの約3割が、遺産額1,000万円以下のケースで発生しています。そして特に多いのが実の兄弟姉妹での争いです。
自分の亡き後、大切に育てた子ども達や、仲良くしていた親戚が、さして多くない遺産のために絆を失ってしまうのは悲しいことですよね。
望まない争いを避けるため、生前にできる対策が「遺言書」を残すことです。
この記事では遺言書の必要性や、遺言書に書く内容、揉めないためのポイントなどを詳しく解説していきます。

遺言書はなぜ必要か

遺産分割協議をスムーズに進めることができる

被相続人が亡くなった後、一般的には相続人全員が集まって「遺産分割協議」を行い、相続人全員の同意を得て、ようやく遺産相続が行われます。
遺言書がない場合、まず相続人と相続財産を確定しなければなりませんが、戸籍を取り寄せたり、財産調査を専門家に依頼したりと、手間も時間も費用もかかります。
また、相続人の中に一人でも遺産分割に反対する人がいると、遺産分割協議がまとまらず、相続をしたくてもできない状況となってしまいます。相続人が多ければ多いほど、協議をまとめるのが困難になるといえるでしょう。
遺言書を作成し、財産目録、相続人を明記することで残された人たちの手間を減らすことが可能となります。

分け方の難しい不動産に関して、事前に対策できる

相続財産の分け方には以下の3種類があります。

  • 不動産と預貯金、有価証券など、分けられる範囲でそれぞれ分けて相続する『現物分割』
  • 相続財産を換金し、現金を分ける『換価分割』
  • ある相続人が特定の財産を相続したことにより、他の相続人より多額の財産を相続してしまった場合に、現金などで代償金を支払い、他の相続人の不足分を補てんする『代償分割』

相続財産に複数の不動産があったり、十分な預貯金や有価証券があったりする場合は現物分割で公平に分けることが可能です。
相続財産のほとんどが不動産の場合でも、不動産を売却して現金を分ける換価分割ができれば問題はありません。
しかし、該当不動産に相続人の誰かが住んでいる場合など、遺産分割の結果その人が自宅を追い出されることも起こりえます。 そういったトラブルを避け、不利益を被る相続人が出ないよう遺言書で財産の分け方を明記しておきましょう。

兄弟の不仲を避けることができる

相続人の順位や配分は法律で決められていますが、「海外留学に行かせてもらった」「住宅費用を援助してもらった」「介護の負担を負っていた」など、それぞれの事情を主張し合ううちに争続に発展してしまうケースが後を絶ちません。
特に兄弟など同順位の相続人が複数いる場合は揉め事が起こりやすいため、それぞれに配慮した遺言書を書くことで、争いを避けることができます。
遺言書を書く際には、遺留分(法定相続人に対し最低限保証されている相続財産の割合)は必ず守るようにしましょう。

遺言書って何を書けば良いの?

遺言書の効力

遺言書に書いたことはすべてその通りになるわけではありません。法的効力をもつ事柄は「法定遺言事項」と呼ばれ、「財産」「身分」「遺言の執行」に関する事項と定められています。

財産に関する事項

  • 相続分の指定や指定の委託
  • 分割方法の指定
  • 相続する権利のはく奪
  • 第三者への遺贈
  • 生命保険の受取人変更
  • 特別受益の持ち戻し免除

金額等の記載が曖昧な場合、相続人間での協議が必要となり、遺言書の効力を十分に発揮できなくなります。金額は具体的に記すようにしましょう。

身分に関する事項

隠し子の認知、未成年後見人の指定などをすることができます。

遺言執行者の指定

遺言事項に沿って相続の手続きを行う人のことを遺言執行者といいますが、遺言書のなかで指定することができます。

上記の事項は法的効力をもつため、遺言の通りになります。
一方で、民法では「遺留分」という相続人の最低限の権利を保証しており、遺留分は遺言書より優先されます。「○○にすべての財産を譲る」などと記載をしても、配偶者や子ども、父母は遺留分を受け取ることができます。

遺留分についてはこちらも併せてご確認ください。

付言事項

遺言書において、法定遺言事項以外の法的効力を持たない記載事項のことを言います。
付言事項は必ずしも必要ではありませんが、感謝の気持ちや遺言書を残した経緯等を記すことで生前の思いを明確に伝えられることから、利用価値は高い項目と言えるでしょう。
具体的には以下のようなことを記載します。

  • 相続分を指定した理由(介護に尽くしてくれた、事業を手伝ってくれた等)
  • 葬儀や法要についての希望
  • 自身の死後の家族への願い、家族への感謝の気持ち
  • 遺体の処置方法の希望(医療への臓器提供など)

付言事項では、誰に対してのメッセージなのか分かるよう、名前などは具体的に明記するようにしましょう。
愚痴や嫌味などは争続の火種となり得ますので、できるだけ否定的な事柄は書かず、感謝の気持ちや前向きな言葉を記すようにしましょう。
長くなりそうな場合は別途手紙やエンディングノートなどを用意すると良いでしょう。

遺言書作成のポイント

  • 作成したことをオープンにする
  • 財産は公平に分ける
  • 付言事項を活用する

書く際の注意点としては、まず、自分が既にいないところで読まれるということを念頭に置きましょう。作成したことはみんなに知らせた方が、疑心暗鬼とならずにすみます。
争続としないため、遺留分に配慮し、財産はなるべく公平に分けることが無難です。
公平に分けられない場合は、付言事項も活用し、理由や想いを明確に伝えましょう。

まとめ

相続を争続へと発展させないため、遺言書の効力を十分に理解した上で、自身の希望を明確に記すことが重要です。付言事項も活用し、家族や相続人への想いが十分に伝わるようにしましょう。
ただし、せっかく作った遺言書を無効としないためにも、作成に際しては細心の注意を払いましょう。遺言書の種類や要件についてはこちらで詳しく解説していますので、併せてご確認ください。
弁護士などの専門家に作成やチェックを依頼するのも安心です。
丑和総合法律事務所相続相談室では遺言書の作成も行っています。どうぞお気軽にお問合せください。

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投稿者プロフィール

丸山 純平
丸山 純平代表弁護士
新宿を拠点として、相続案件に多数取り組んでいます。
他士業と連携し、スムーズな解決に尽力いたします。